根性論の果てに得た教訓
以前ツイートした内容と被るが少々大目に見て欲しい。
小学校一年生、今から15年前の事だ。
当時のブームといえばポケモン。とち狂ったようにゆとりのカリキュラムに毒されたガキどもは縦10センチ横15センチ程度の画面を見つめ、草むらを駆け巡り、洞窟を抜け、ポケモンマスターへの道を進まんとしていた。ポケモンが強い奴はあの時からその片鱗が窺われた「スクールカースト」という世界で上位に立てたように思えた。ガキは皆「スクールカースト」の上位に立たんと学校が終わればポケモンに熱中し、明くる日もポケモンに明け暮れた。
私もその例外ではなかった。私もまた、ポケモンに魅せられた少年の1人だった。電源をつけて、画面が点灯し、自分の思うがままに主人公を動かせた時は心踊った。オダマキ博士とかいうホモ臭い中年のオッさんが狂犬病っぽい野犬に追っかけられてる様を見た時は引き返そうとしたが引き返せなくてブチ切れた事以外は何もかもが感動的だった。みず、くさ、ほのお、「草は弱そう、火は水に弱い、だから水が最強」と強ち間違ってもない理論でミズゴロウを選び、俺は冒険に出た。
それから暫く経って、どっかで凄まじく魅力的なポケモンに俺は出会った。「ワンリキー」というポケモンである。筋骨隆々なその姿は当時ひ弱な俺に強く印象付けた。
[ワンリキーの カラテチョップ!]
脳に電流が走った。筋骨隆々な”ワンリキー”が「空手チョップ」をする絵面を思い浮かべた。
どんなに うんどうを しても いたくならない とくべつな きんにくを もつ ポケモン。おとな 100にんを なげとばす パワー。
図鑑にはこう書かれていた。
ほう、
そんな筋肉バカが空手チョップなんてしたら
「最強」
じゃないか。
齢6歳にしてこの世の真理に気づく。力=強さという太古から変わらぬ方程式。力とは、即ち筋肉。当時、テレビではボブ=サップという2メートルの化け物がリングの上で”にんげん”を殴っていた。俺はボブ=サップに憧れた。「力が欲しい」。その衝動はワンリキーという”力のイデア”と出会う事でより強くなった。ワンリキーが欲しい。それは最早必然であった。
程なくして、同級生のコウヘイ君からワンリキーLv18を交換で手に入れた。確かミズゴロウLv13と交換した気がする。今考えると、本当にコウヘイ君はクズだなと思う。しかし当時の私は大変ご満悦だった。ミズゴロウよりレベルが高いワンリキーを俺は手に入れたんだと、しかもカラテチョップも覚えてるぞと、本当に満足していた。
カラテチョップをしまくっていると、ある異変に気づく。いつもよりダメージが多い時があった。所謂急所に当たった、って奴だ。しかし悲しいことに、当時の俺は「きゅうしょ」を知らなかった。なんかしらないけどたくさんダメージをあたえてる、程度の印象だったのだろう、そこから俺はある恐ろしい仮説を立てた。
これって ワンリキーが カラテチョップ を がんばったからじゃね?
現代風に言えばthe 根性論 である。カラテチョップをしまくった→拳の強化に成功→ダメージが増えた、昭和のジジイもビックリの根性論だった。
それからというもの、俺とワンリキーの修行が始まった。洞窟にこもり、「カラテチョップに適した」ポケモンを片っ端からカラテチョップしまくったのである。大山倍達もビックリの三倍努力。”イシツブテ”を砕き、同族の”ワンリキー”も拳でねじ伏せ、”ノズパス”とかいういかにも硬そうなバケモンも粉砕した。PPがなくなり、ポケモンセンターで回復する頃には俺のワンリキーは篭っていた洞窟内のポケモンを一撃で沈める拳を持ち、その様たるや達人の風格をも漂わせていた。これを毎日、欠かすことなく繰り返した。
数ヶ月後、”ワンリキー”は”ゴーリキー”に進化し、コウヘイくんに教えられて通信交換で”カイリキー”という腕が4本のシヴァ神の様なバケモンに進化していた。見事な広背筋と上腕二頭筋を兼ね備えていた。こいつの「カラテチョップ」は最早師範代である。数ヶ月洞窟に篭もり「カラテチョップ」だけを極めた達人。俺は満を持して洞窟を後にした。この時、カイリキーのレベルは既に40を超えていた気がする。何故か言うことを聞かない時があったがそんなの気合で何とかした。俺とカイリキーの絆は強かった。
船に乗り、キンセツシティというジムに道場破り込みに行った。途中ミチル?という名のガキが喧嘩を売ってきたが持ち前の「カラテチョップ」で蹴散らした。ラルトスとかいう、いかにも弱そうなポケモンを出して来た。アホなのか?俺はこんな雑魚を相手にする為に洞窟に篭っていたわけじゃない。空手道を極める為にイシツブテを、同士を、ノズパスを、自らの手で殺めて来たのだ。
そうこうしてるうちに、「ジムリーダー」を名乗るジジイが勝負を仕掛けて来た。が、程なくして俺は絶望した。磁石に目のついたガラクタと、モンスターボールと、さっきの磁石を3つくっつけた20レベのポケモンしかもっていなかった。当時、俺はタイプの相性という概念がなかったが、コイツらは”カラテチョップ”が効きそうなポケモンであることを直感で悟った。そこからはあまりにも一方的な試合だった。カイリキーがカラテチョップをして、相手を一撃で沈めるだけの試合。カイリキーは強くなりすぎたのだ。この時の俺はあまりの己の強さに退屈を覚えた記憶がある。「おれはつよくなりすぎた」、小一にしてこの言葉を発したのは世界で恐らく俺だけだったであろう。あの日から俺は”ポケモントレーナー”になることをやめた。
その後も、一応ストーリーは進めた。ゴーストタイプも、「みやぶる」をすればカラテチョップは当たった。カゲボウズだろうとサマヨールだろうと、俺のカイリキーの前では塵芥に等しかった。気づけば俺はチャンピオンロードを抜け、チャンピオンを名乗る男に勝負を挑まれていた。その道中、悪そうなモヒカンはカラテチョップで沈め、その次の女はこれまでの経験からみやぶる→カラテチョップで粉砕し、3人目のオカマもカラテチョップで殴った。4人目は特に覚えていない。
結論から言えば、勝負は一瞬で終わった。”チャンピオン”のポケモンは、「カイリキーLv80のカラテチョップ」で跡形もなく沈んだ。そこに残ったものは虚無感と、強くなりすぎた己への絶望感だった。『ポケモンつまんないや』これが殿堂入りした瞬間の僕の言葉だった。
カイリキーLv82 ジグザグマLv12
殿堂入りおめでとう!
この画面を最後に、「新しいチャンピオン」は生まれた。当初の純粋な迄の力への憧れと大いなる期待は、己への絶望と強者故の退屈へと変わったのだ。それは、テレビで見た”にんげん”を倒した瞬間のボブサップの歓喜に満ち溢れた表情とは全く違うものだった。
あのシヴァ神の様なバケモンは、俺の”夢”を壊したのだ。
(完)