Werther_is_kyokon’s blog

R18となっております

BOOKOFF秋葉原店6階ということ

ーここは戦場だー

 

平成29年1月21日 東京都千代田区秋葉原 BOOK・OFF秋葉原店6階アダルトコーナー 

 

私はここにいる。相も変わらず全員殺気立ってやがるぜ、なんて覇気だ。皆が皆達人の域にいやがる。三日は風呂に入っていないであろう巨大なカバンを背負ってる住所不定無職、フケまみれの50代童貞、目の焦点が定まってない三十路手前のチンピラ、そして二十歳俺。

それにしてもなんちゅう臭いだ、ここは神田川の下水か?換気扇の近くだってのに空気が腐ってやがる。本当に本棚の上に置いてある防臭剤は機能してんのか?まぁそんなこたぁどうでもええ、俺は自分の戦いに集中しなければ。この無数の銃弾飛び交う戦場の中から極上のお宝「ONE PIECE」を探し出すには多少の危険も犯さなきゃって感じだろ?オラのちんぽはもうボルテージが最骨頂に達してやがるんじゃ、オカズ!オカズ!オカズ! もう俺の中のもう一人の自分が今にも俺を飲み込まんと、その機会を伺ってやがるんだ。

本棚を吟味する。一見作者の名前の五十音順に並んでるように見える。だが俺はこの道3年のベテラン、17ん時にこの道に飛び込んでからちったぁ修羅場を潜り抜けてんだ、ここの店員は漢字が読めねぇのか、平気で読み仮名を間違えて配置を間違える。ほらぁ言わんこっちゃねぇ、神代竜(かみしろ りゅう)を「サ」行のとこに入れてやがる。神代先生を知らねぇとかこの仕事舐めてんのか?多分「じんだい」とか読んだんだろ、これだからインド人の店員はダメなんだ、ちゃんと秋葉原には「秋葉原の人間」を使わなきゃダメだろ、この街はこんなに甘かぁねぇよ、死ぬぞインド人 エロ本作家の名前を間違えた暁にゃ今に加藤2世がホコ天にトラックごと突っ込んで秋葉原アウシュヴィッツに変えちまうぜ、おっとこんな事を考えてる場合じゃねぇ、今は目の前の事に集中しねぇとな。早速奴らも動き出したようだな、住所不定無職ー てめぇはこのフロアを支配してやがる。あまりにも臭くてテメェの半径5mは必然的にdeath zone 絶対不可侵領域だ。お前が移動を開始するだけでこのフロアにいる猛者共が一斉に大移動を開始する。それは宛らフン族によるゲルマン民族の大移動(フンだけに臭い)、一時撤退を余儀なくされる。それは俺以外の戦士も同様。50代童貞、チンピラ、三十路の眼(ガン)もみんな奴から逃げてやがる、いや待て、50代童貞だけが決死の突撃を始めやがった、なんだてめぇは? まさか、東ゴートか?テオドリックか?嘗てあのローマ帝国オドアケル将軍を撃破してローマを支配した、伝説の戦士テオドリックの生まれ変わりだってのか?あの野郎!なんて奴だ。店員も驚いてやがる。呆気に取られるあまり6秒に1回の頻度で普段叫んでる「お持ち頂ける本などございましたら、お気軽にお持ち下さいませ」が言えてねぇ。なるほどな、ここは戦場。俺たちはそういう世界にいるんだ。分かったぜ50代童貞、いや、テオドリック

嵐が去る。一斉に飢えた獣たちが群がる。残り香とは思えないほどの激臭をものともせず、極上のエロ本を漁る。或る者は涎を垂らしながら、また或る者はこの世のものとは思えない形相をしながら、各々己の欲望を満たさんと、ひたすらに本棚と格闘する。その先の一条の光を掴まんと、闇の中を藻掻く。安息の地は無い。再び店員が声を上げる。「お売り頂けるコミック、ゲームソフト、ございましたら当店までお持ちくださいませぇぇぇぇぇえ!!!」「ぉぉぉぉーーー持ちくださいませぇえぇぇぇぇえ」 阿吽の呼吸で30代フリーターに合わせてインド人が叫ぶ。慈悲はない。これを約6秒のインターバルを置いて繰り返す。終わりのない、無限回廊。彼らは、何のために生を受けたのだろうか。恐らく千代田区で一番空気の悪いここBOOK・OFF秋葉原店の6階で、不特定多数の社会不適合者に届くことのないSoulを叫び続ける為だけに母親の子宮の中で何億という生存競争を勝ち抜いたのだろうか。だとしたら、この世はあまりにも、惨すぎる。あのインド人はどういう思いを秘めてこの極東の島国まで遥々来たのだろうか?異国の地で一攫千金を夢見て、数千キロ先まで来た結果がこの無間地獄。ごめんな、お前が人生を賭けた来た国がこんな有り様で。しかし同情している暇はない。ここは戦場、気を抜いた奴から死ぬのだ。本棚を漁る。みつけた。「あねかん」   ―姉をぶち犯す超大作。私のスピルバーグ監督が瞬時にスタンディング・オベーション(勃起)と化す。やったぞ、俺はついに勝ったんだ。だが俺はこの程度のエロ本で満足するようなヤワな男じゃない。ゲーム続行だ。更なる高みを目指して荒野を駆け抜ける。もっと、もっとおチンチンに訴えてくる様なエッチ本が欲しい。俺が求めるのは究極のエロスや。ミロのヴィーナス、ダヴィデ像、おのののか、この3つに比肩するような完璧なまでの”エロス”を俺は求めている。この時俺の中のボルテージは最骨頂に達しようとしていた。俺の中のATSUSHIが狂ったようにライジング・サンを踊り、俺の中のYOSHIKIがヘドバンをキメながら木魚を叩き、俺の中の小梅太夫が般若心経を唱えながら「チキシヨォォォォォォオオオオ!!!!!!」と叫んでいた。正に地獄絵。阿修羅。私の気の高まりを感じたのか、またしても店声が大きくなる。

「お売りいただけ本、コミック、ゲームソフトおもちぃぃぃぃい!!!!くださいいいいませぇぇぇえええええ!!!!ございましたら当店にまでぇぇぇぇぇええ!!!」

最早従来の文法など存在しない。言語とは日々進化するのだ。しかしこのクソ店員、喧嘩を売ってるとしか思えない。死ね。マジでうるせぇ。大体6秒に1回このセリフ叫んでホント恥ずかしくないのか?マジで40手前のおっさんが時給俺の3分の2程度しか貰ってないとか死にたくならねぇのか?社会の底辺が我のような屈強な誇り高き戦士の戦いに横槍を入れるとか許される事ではない。死ゾ。死ゾシゾシゾ。

 

「んんんんーーーーるさい!」 

 

眼“ガン”が暴れた。ヤベぇ。シンプルにやべぇ。エロ本持ったまま店員にキレる三十路のおっさんとかマジで関わりたくねぇ。(マジでキレてて本当に気持ち悪かった。店員も「申し訳ございません」っつって静かになってた)早いとこ戦線離脱しないと身が持たない。もうさっきのATSUSHIもYOSHIKI小梅太夫もどっかに消えちまった。てかこれ以上こんな腐ったとこにいたら死ぬ。さっきから隣の垢まみれのデブが「これはヤバイ、しししししし」とか言ってビニール剥がして普通にエロ本読んでるし、テオドリックに至っては物凄いくしゃみして本棚に唾めっちゃ飛んでたし(何が「テオドリック」だよただの鼻のイカれたオッサンだろ)、もう「あねかん」だけ買ってとっとと帰ろう。なんかもうどうでもよくなった。俺はとっととシャバの空気が吸いたい。やめだやめだ

因みに、BOOK・OFF秋葉原店は4階から上はレジがないので、商品を買う際は4階まで降りる必要がある。必然的に「あねかん」なんてタイトルのエロ本を持ちあるていたら、(というか6階から降りてくる時点で色々「お察し」なのだが)リアル・チャウシェスクになれるのだが今の俺にチャウシェスクを味わう余裕などなかった。その目は淀み、覇気は無く、疲れきっていた。店員が「袋にお入れしますか?」とか舐めたマネしてきた(本当にどうなってんだ、馬鹿じゃねぇのか?エロ本買って袋にいれないってマジでどこの部族だよ)のだが目で圧殺した。店の外に出ると、いつの間にか夜になっていた。想像以上に時間が経過していたらしい。風が頬を冷たく叩きつける。空を見上げた。月が煌々と輝いていた。

 

「お月さんが笑ってらァ」

 

私は秋葉原の真ん中で、ニコニコしながらそう独り言を呟いた。ハハッ、俺も遂に”こっち側”の人間になっちまったんだな。

(完)

※因みに、今回のブログは三千文字を超えており、私の履修している社会学Ⅰのレポートの文字数2500字を満たしているのでこのブログをレポートとしてハナクソ教授に送り付けたいと思う次第である。